インドネシアはバリ島を中心に、様々な国からやって来た外国人が別荘(ヴィラ)を所有する文化が形成されています。
外国人が不動産を購入する際は、その国の法律によって定められたルールに従って不動産取引を行う必要があります。
この記事ではインドネシアの不動産取引における基本情報と、契約の流れをご説明いたします。
日本と違う不動産の権利形態
日本の不動産では「所有権と借地権」という二つの種類の権利形態があり、外国人でも自分の名義で土地を所有できるという特徴がありますが、インドネシアの場合は「所有権と借地権」以外にも複数の権利形態があります。
外国人による土地登記は認められておりませんが、その代わり期限付きで外国人でも使用できる方法が指定されています。
4つの権利の違いを理解すれば大体OK
別荘を所有する際に、実際に使用される権利としては以下の4つパターンがあります。
それぞれどういう時に使われるのかが判れば、そんなに難しくはありません。
Hak Milik(ハク・ミリク/所有権)
Hak Pakai(ハク・パカイ/使用権)
Hak Guna Bangunan(ハク・グナ・バングナン/建設使用権)
Hak Sewa(ハク・セワ/借地権)
Hak Milik(ハク・ミリク/所有権)
「Hak Milik(ハク・ミリク)」は土地の所有者として所有権登記を行える権利のことを指し、インドネシア国籍の個人にのみ、その権利が認められています。またインドネシア資本の会社であっても法人によるHak Milikの所有は基本的に認められていません。
Hak Milik(所有権)は無期限で土地を保有することができ、譲渡、売却、相続をすることが可能です。
フリーホールド(所有権売買)の土地や物件を外国人が購入したい場合、インドネシア人の代理人(ノミニ―)に所有して貰うという方法も思い浮かびますが、所有権利の法的な拘束力は無いため、地主との関係がこじれた場合はトラブルになりやすいので積極的にお勧めできる方法ではありません。
インドネシアに長期滞在するためのビザ(KITASやKITAP)がある人や、現地に会社を設立する予定のある人は、期限付きですが外国人でも登記登録を行う形で土地を使用する方法として、Hak Pakai(使用権)とHak Guna Bangunan(建設使用権)がありますので条件に合う方はご参考にしてみてください。
外国人はフリーホールドの土地を購入できませんが、以下の方法であれば使用したり売却したりすることができます。
Hak Pakai(ハク・パカイ/使用権)
「Hak Pakai(ハク・パカイ)」は、居住許可(KITASまたはKITAP)を持つ外国人、またはインドネシア人の個人に認められた権利です。国有地または個人が所有する土地の上に建物を建てて使用することができます。
Hak Pakai(使用権)は土地の使用者として外国人でも名前が登記簿に記されます。
最初の権利期間は30年ですが、その後に20年、30年と延長することで、最長で80年間、土地を使用する権利を得ることができます。
Hak Pakai(ハク・パカイ)はHak Milik(ハク・ミリク)と同様に、権利を譲渡、売買、相続することができます。
権利期間が終了したり、居住許可(KITAS・KITAP)が破棄されると、土地の権利は国や元の持ち主へと返却されますが、権利が有効なうちは売却や譲渡が可能です。またインドネシアの人に対してはフリーホールド(所有権)として売却したり、権利形態をHak Milik(ハク・ミリク)にアップグレードして相続を行うこともできます。
この権利を取得するためには、次のような条件を満たす必要があるので、判断ポイントとして留意しておきましょう。
- 居住許可(KITASまたはKITAP)を取得していること
- 使用目的が「居住用」であること(収益物件としては不可)
- 2,000㎡以下の土地サイズに限る
- 1人に与えられる権利は1つのみ(複数の物件は持てない)
- 物件購入金額が「IDR5,000,000,000(50億ルピア)」以上であること
R5,000,000,000(50億ルピア)」に満たない物件でも、50億ルピアの物件を購入した場合にかかる課税額と同額分を納税できる場合は、Hak Pakaiとしての権利を得ることができます。
この場合、買主だけでなく、売主に対しても50億ルピアを基準とした額で課税されてしまうため、買主がその分の額を負担するという形で合意が取れるという場合が多いです。
Hak Guna Bangunan(ハク・グナ・バングナン/建設使用権)
「Hak Guna Bangunan(ハク・グナ・バングナン)」は、インドネシアに在籍する法人企業に与えらえる権利です。国有地または個人が所有する土地の上に建物を建てて使用することができます。
Hak Guna Bangunan(建設使用権)は土地の使用者として会社名が登記簿に記されます。
最初の権利期間30年に、さらに20年延長することで、最長で50年間、土地を使用する権利を得ることができます。
Hak Guna Bangunan(建設使用権)も同様に、権利の譲渡、売買、相続をすることができます。
権利期間が終了すると、自動的に土地の権利は国や元の持ち主へと返却されますが、Hak Guna Bangunanの場合も権利が有効なうちは売却や譲渡が可能です。インドネシアの人に対してはフリーホールド(所有権)として売却したり、権利形態をHak Milik(ハク・ミリク)にアップグレードして相続を行うこともできます。
インドネシア人オーナーの国内企業、外国人が出資してつくられた外資企業、いずれの場合も登記登録はHak Guna Bangunanとなります。
- Hak Guna Bangunanにおいては、土地の使用サイズの制限はありません。
- 購入してから2年以内に建物を建てて使用するという決まりがありますが、実際はランドバンキングや投機的な使い方をする会社も多く、守られていないこともあります。
Hak Sewa(ハク・セワ/借地権)
「Hak Sewa(ハク・セワ)」とは、在住許可(KITASやKITAP)を持っていない外国人でも契約をすることができる借地権のことを指します。借主は貸主であるインドネシア人の地主が所有する土地の上に建物を建てて使用することができます。
「Hak Sewa(借地権)」は、ノタリス(行政書士)によって契約書が作成されますが、借主と貸主との間で取り交わされる民事契約であるため、土地の登記簿には外国人の使用者の名前は記載されません。
リースホールド(借地権売買)で期限付きの土地を借りて、その土地に建てられた建物は、居住用としても収益物件用としても使うことができます。
借地の期間については民事法上の決まりは特にありませんが、25~30年間ぐらいの期間での取引が一般的です。契約者同士が生きていられる期間が目安とされるので、100年以上の契約というのは現実的に効力がありません。
他の権利と同様にHak Sewa(借地権)は、契約残存期間の権利を譲渡、売却、相続することができます。
不動産取引-契約の流れ―
次に外国人が現地で安全に不動産取引の契約を進めるための流れについて説明いたします。
売買契約を行う前に取り交わす同意契約(LOIやMOU)は、売買契約の内容を示すだけでなく、買主・売主双方の認識のズレを防いだり、支払いやサインなどの期日や行動を具体的に決めるための書類です。
リースホールド(借地権売買)とフリーホールド(所有権売買)、それぞれのケースでご説明いたします。
リースホールドの契約
物件購入を決めたら、その物件を購入する意思があることを伝えるため、買主はLOIにサインをします。
売買契約の締結に向けて、物件の価格、支払いの期日、条件などを明記したMOUに買主・売主はサインをします。
買主は物件購入額の10%のデポジット代金(頭金)をノタリスに支払います。
売主が提出した登記簿や納税証明書、土地の状態など、ノタリスによって調査が行われます。
デューデリジェンスがOKであれば、Hak Sewa(借地権)の取引における契約が成立したことを証明する書類(Binding Agreement)が作成されます。買主は購入費用の残りをノタリスに支払い、売主は税金の支払いを行って完了です。
借地売買契約の成立によって発生する納税義務は、以下の条件となっております。
売主 NPWP(納税番号)有り | 10% |
売主 NPWP(納税番号)無し | 20% |
買主 | 無税 |
フリーホールドの契約
物件購入を決めたら、その物件を購入する意思があることを伝えるため、買主はLOIにサインをします。
売買契約の締結に向けて、物件の価格、支払いの期日、条件などを明記したMOUに買主・売主はサインをします。
買主は物件購入額の10%のデポジット代金(頭金)をノタリスに支払います。
ノタリスによって、PPJB(Perjanjian Pengikatan Jual Beli=売買契約合意書)が作成されます。買主・売主双方合意の上で、インドネシアの法律に従って土地所有権の売買契約を進めるということを示した書類です。
売主が提出した登記簿や納税証明書、土地の状態など、ノタリスによって調査が行われます。
デューデリジェンスがOKであれば、ノタリスでAkta Jual Beli(売買証書)を作成して貰います。買主は購入費用のの残りを支払い、その後に税金の支払いを行います。
売主、買主ともに納税が完了した後、土地登記簿の所有者の名義変更を書き換える手続きを行います。
売買成立によって発生する納税義務は、以下の条件となっております。
売主の不動産売却税(PPH) | 取引価格、またはNJOPどちらか高い方の2.5% |
買主の不動産取得税(BPHTB) | 取引価格、またはNJOPどちらか高い方の5% |
デューデリジェンスについて
インドネシアでは、不動産購入の前にノタリスによってデューデリジェンス(調査)が行われます。
デューデリジェンスの費用は不動産取引金額の1%と言われており、基本的には買主が負担します。
通常は不動産取引の契約の中のプロセスで行いますが、買主によってはデューデリジェンスを判断基準として物件購入を決める前に別途行うという人もいます。
- ゾーニング
- 登記簿
- 抵当や担保に入っていないか
- 税金の滞納がないか
- IMB(建築許可証)
よく聞く不動産用語
インドネシアでよく使われる不動産用語です。
意味と役割を知っておくと理解が深まります。
Notaris(ノタリス)
日本では不動産業者が契約書の作成を行いますが、インドネシアではノタリスの事務所で手続きを行います。
ノタリスは行政書士のような役割を担い、中立的な立場として売主と買主の間に立ち、契約書を作成したり、エスクローとして売買取引の支払いを受け取ったり、デューデリジェンスなどを行ってくれます。
LOI(買付意向表明書)
「LOI=Letter Of Intentionの略」で、物件購入の意思があることを売主に伝えるために作成します。
値段交渉においては、買主が真剣に購入を検討していることを示すという意味でLOIの提示が有効です。
MOU(基本合意書)
「MOU=Memorandum Of Understandingの略」で、基本合意書(または覚書)のことです。
売主と買主が売買契約を進める上で、条件、金額、支払い期日の合意を締結するものとなります。
ゾーン(エリア規制)
その土地がどのゾーンの区域内にあるかによって、そこに建てられる建物の使用用途の決まりがあります。
Commercial Zone(観光商業ゾーン)で条件を満たす建物であれば宿泊施設としてのライセンスが取得できたり、Residential Zone(レジデンシャルゾーン)であれば居住用や賃貸物件用の関連許可証が取れたりします。
Agricultural Zone(農地)では農業用でしか土地を使えず、Green Zone(グリーンゾーン)では自然環境や開発保護のため建物が立てられないエリアであることを意味します。
IMB(建築許可証)
インドネシアでは建物には「Izin Mendirikan Bangunan(建築許可証)」があることが義務付けられています。
略して「IMB(イー・エム・ベー)」と呼ばれることが多いです。
本来は建物が建てられる前に取得すべきものですが、取得までに半年以上かかるケースが多く、新築の物件ではIMBが完了していない状態で販売されている案件もあります。
事業などを行う際に、IMBが建物の使用用途を示す許可証となるため、その土地が使用目的に合ったIMBが取れる場所なのかどうかという点が大事なポイントになります。
Pondok Wisata(宿泊業ライセンス)
「Pondok wisata(ポンドック・ウィサタ)」とは、宿泊業を行うためのライセンスです。
個人所有のプライベートヴィラを民泊運営する際に取得が必要なライセンスとされていますが、観光商業ゾーンのエリアの中に入っている建物に限られます。
観光商業ゾーンではなく住居ゾーンに建つプライベートヴィラも多いので、Pondok Wisata無しで宿泊運営を行っているヴィラは、それに準ずる賃貸業のライセンスが必要となるケースもあります。
SHM(所有権登記)
「Sertifikat Hak Milik(所有権登記)」の略で、フリーホールド(所有権売買)のことを意味します。
頭文字を取って「エス・ハー・エム」と呼び、インドネシアの不動産情報サイトなどでは、フリーホールド物件をSHMと表記していることが多いです。
まとめ
居住用・投資用・事業用、いずれの場合も、外国人が不動産を扱う際には少し知識が必要です。
不動産の所有方法については、数多くの取引を経験している現地の不動産会社に相談するのがもっとも効率が良いです。会社設立や移住用のビザの手配などは法務サポート専門のエージェントに依頼することができます。
まずは自分のライフプランを伝え、適切な所有方法のアドバイスを聞いてみましょう。